患者の声を”エビデンス”に変える質的研究
医薬品開発において、臨床試験で得られる数値データは欠かせません。しかし、患者さんが日常生活で抱える悩みや治療に対する本音は、数値だけでは捉えきれない側面があります。質的研究では、患者さんが発する生の言葉を学術的に妥当な手法で分析し、科学的なエビデンスとして構築します。
FDA(米国食品医薬品局)も「患者中心の医薬品開発(PFDD)」に関する一連のガイダンス(外部リンク)において、質的研究が患者体験を科学的に解明するために重要な役割を果たすことを明示しています。しかしながら、いざ実施するとなると、以下のような課題に直面するケースが少なくありません。メビックスでは、国際ガイドラインに準拠した質の高い質的研究を実施し、患者の声を科学的エビデンスへと昇華させるサポートを提供しています。
このような課題を抱えていませんか?

医薬品開発や販売の現場では、数値化されたデータだけでは解決できない課題が数多く存在します。
「治験は成功したのに、実臨床でうまくいかない」
治験で安全性や有効性は確認できたものの、実臨床において服薬継続(アドヒアランス)や治療満足度を阻害する要因がわからないことがあります。数値データでは「服薬率が低下している」という事実は把握できても、「なぜ患者さんが薬を飲み続けられないのか」という理由までは見えてきません。
「医師と患者の認識にギャップがあるように感じる」
医師が想定している患者像と、実際の患者さんが抱える悩みの間にギャップが生じることもあります。質的研究では、医師と患者さんの双方にインタビューを行い、このギャップを探索することが可能です。
「アンケート結果の”なぜ”がわからない」
アンケートの回答結果を見ても、患者さんが「なぜその選択肢を選んだのか」という背景は推測の域を出ません。また、既存のPRO(患者報告アウトカム)スコアの変化が実際の生活の質(QOL)にどう影響したのか、具体的なイメージが医師や看護師といった臨床側、あるいは製薬企業側もわからないといった課題が見られます。
「グローバルからの要求に応えられない」
グローバルチームから日本独自の定性的エビデンスの提出を求められているものの、国内での実施ノウハウが不足しているケースがあります。海外での調査を日本に適用する際は、日本の社会的背景や文脈を考慮したローカライズが必要です。
「時代や環境の変化に対応したい」
医療制度やガイドラインのアップデート、コロナ禍前後での患者行動の変化など、時流によって変化する要素への対応が求められることも増えています。また、特殊な条件でのリクルートや希少疾患など、サンプルサイズが限られる領域では、量的な検証が困難なため、質的なアプローチが有用です。
「定性調査のやり方がわからない」
質的研究や定性調査の重要性は理解していても、具体的な分析プロセスや論文投稿までのロードマップが見えていないために、実施に踏み切れないことも少なくありません。
メビックスの質的研究における強み

医薬品開発や販売において直面するこうした課題に対し、メビックスは医療分野における豊富な経験と学術的な専門性を活かし、質の高い質的研究支援サービスを提供しています。
高い専門性と学術的アプローチ
質的研究に精通した専門のリサーチチームがプロジェクトを担当します。医療・公衆衛生学から社会学まで、チーム内のメンバーの学術的バックグラウンドも多様です。また、医療領域の専門知識を持ったインタビュアーが、医療や患者さんの環境・文脈を正しく理解したうえで深い掘り下げを行います。希少疾患から慢性疾患まで、幅広い領域での実施経験に基づいた最適な質的研究デザインの提案が可能です。
厳格な分析プロセスと国際ガイドラインへの準拠
COREQ(質的研究報告のための基準)などの国際的なガイドラインを遵守した研究プロセスを実施しています。特に、複数の分析者がコーディングを行う「研究者トライアンギュレーション」により、分析結果の信憑性を担保します。
また、プロジェクトに関わる医師との議論を通じて、分析結果の臨床的意義を深く考察することも可能です。さらに、質的分析ソフトウェアを活用することで分析過程のログを残し、分析の透明性を確保しています。
メビックスにおける質的研究の実績(学術論文掲載例)
メビックスが支援した質的研究は、国際的な学術誌に掲載されています。ここでは、実際に掲載された論文の事例をご紹介します。
喘息領域でのミクストメソッド
日本人喘息患者454名への量的調査で症状負担とQOLへの影響を確認後、コントロール不良患者20名への質的インタビューを実施したミクストメソッド研究です。質的分析から、患者は効果的な治療を求めながらも医師に心理的負担を伝えられないことや、咳症状による周囲への罪悪感、コロナ禍における周囲からの誤解、睡眠不足による仕事・育児への影響があることなど、9つのテーマが生成されました。量的データで実態の傾向を把握し、質的データでその背景を詳細に理解することで、患者中心の治療戦略への示唆が得られました。
論文の詳細はこちら(PubMed):https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37698717/
肥大型心筋症(HCM)領域での質的研究
日本人HCM患者19名への半構造化インタビューによる質的研究を実施し、HRQoL関連の10テーマを生成しました。多くの患者は症状の緩やかな進行により自身のHCM症状に気づいておらず、周囲に負担をかけたくないなどの理由から疾患開示を躊躇していました。医師への信頼は高い一方、精神的負担や日常の困難について相談することに消極的でした。医師に負担を伝えにくいことが明らかになり、より深い医師・患者間コミュニケーションの必要性が示唆されました。
論文の詳細はこちら(PubMed):https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40641461/
アルツハイマー病(AD)領域での介護者を対象とした質的研究
AD患者の介護者22名への半構造化インタビューによる質的研究を実施し、アミロイド標的療法(ATT)と治療中止に関する3つの主要分類、15テーマ、5サブテーマが生成されました。介護者は、治療中止により待ち時間削減や経済的負担のメリットが得られることが明らかになった一方、中止後の症状進行への懸念があり、継続的なフォローアップケアを求めていました。これにより、ATT導入時の丁寧な説明とシェアード・ディシジョン・メイキング、治療中止後のフォローアップ体制の必要性が示唆されました。
論文の詳細はこちら(PubMed):https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41307609/
メビックスでは、上記以外の領域でも多数の質的研究の実績がございます。薬剤や対象疾患に合わせた最適な研究デザインのご提案が可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
なぜ、量的研究だけでは不十分なのか?
量的研究と質的研究はそれぞれ異なる役割を果たします。PICO/PECOに当てはまらないリサーチクエスチョンや、「なぜ」「どのように」という問いに対しては、量的研究よりもむしろ質的研究が適しています。
量的研究は「現象の広がり(What/How many)」を測るのに優れていますが、一方で質的研究は「現象の深さ(Why/How)」を浮き彫りにします。選択肢形式の調査では、あらかじめ想定した範囲の回答しか得られず、未知の影響や選択肢にない生活上の不便さを見落とすリスクがあります。
質的研究で得られた知見をもとに量的研究におけるアンケート調査の設問を設計することで、的外れな調査を防ぎ、データの妥当性を高めることができます。特に両者を組み合わせる「ミクストメソッド(混合研究法)」は、臨床研究における強力なエビデンス構築手法として注目されています。
質的研究の導入が効果的な活用シーン
質的研究はさまざまな場面で患者さんの声を深く理解し、医療の質を向上させるために活用できます。
具体的な患者ニーズの把握
質的研究では、既存の治療法において、患者さんが日常生活のどの場面でどのような不便や苦痛を感じているかを詳細に理解できます。患者さんが自身の症状をどのような言葉で表現し、それが生活上の制限としてどう機能しているかを深く理解することで、治療薬の訴求ポイントの明確化、患者向け資料開発や教育コンテンツの作成に役立てることが可能です。
治療に対する不安、経済的負担、周囲の目など、受診や服薬をためらわせる多面的な要因を探索することも可能です。発症から診断、治療開始、継続、変更に至る各時点での感情の揺れ動きを時間軸に沿って理解することで、患者さんが直面する心理的な障壁を明らかにし、患者中心のケアを実現するための示唆を得られます。
Exitインタビュー(治験終了後インタビュー)による深掘り
治験に参加した患者さんにインタビューを行うExitインタビューは、数値化しにくい症状の変化や治験薬のベネフィット・リスクを詳細に把握するために役立つ手法です。治験継続の動機や離脱の理由を明らかにすることで、試験デザインの適正化にも貢献します。
治験に参加したからこそ得られた「患者さんのリアルな声」は、上市後の製剤の販売・普及活動の改善にも活用できます。治験薬への期待と実体験のギャップを聴取・分析することで、患者ニーズに合致した製品価値の訴求ポイントを明確にすることが可能です。
量的研究との相乗効果
質的研究で得られた「患者さん自身の言葉」をもとにアンケート設問を作成することで、回答者が違和感なく答えられる質の高い量的研究を実現できます。逆に、アンケートで得られた意外な結果や外れ値について質的調査で深掘りすることで、その背景や理由を説明することも可能です。この場合、両方の調査を一つの研究で行うミクストメソッドもおすすめです。
よくある質問
最後に、質的研究の実施を検討する際によくいただく質問にお答えします。
Q1: プロジェクトの開始から納品まで、どのくらいの期間と予算が必要ですか?
調査設計から倫理審査、インタビュー実施、分析、論文投稿まで、標準的には1年前後を要します。リクルート手法(パネル利用・施設立ち上げなど)と対象者数によって期間と予算が変動しますので、まずはお気軽にご相談ください。各フェーズの進捗状況は定期的な定例会議で共有し、プロジェクトをスムーズに進行させます。
Q2: 質的研究には何人くらいの対象者が必要ですか?
質的研究では「頻度」や「数」は重要ではないため、一概に人数は決まっていませんが、10〜20名程度が一般的です。ただし、希少疾患や特定の症状を有する疾患など対象者の母数が少ない場合は、5〜10名程度の極めて少数のインタビューでも、貴重なエビデンスとして十分な価値を持ちます。
Q3: インタビューはどのような形式(対面・オンライン)で実施しますか?
現在は、全国どこからでも参加可能なオンライン(Zoom等)でのインタビューを実施しています。オンライン形式は、外出が困難な患者さんの心理的・身体的負担を軽減できるため、より深い発言を引き出しやすいメリットがあります。メビックスでは、プライバシーに配慮した環境設定や、録音・録画データの管理体制を徹底しています。また、オンライン環境に慣れない方(高齢者の方など)に対する機材や操作のサポートも行っており、研究によっては電話インタビューも可能です。
Q4: 質的データの客観性、信頼性や一般化可能性は、どのように担保されていますか?
質的研究では、「研究者の主観」を活用しながら「対象者の主観」を解釈・分析していくため、量的調査のような「客観性・信頼性」という概念をそのまま適用することはできません。その代わり、「信憑性(credibility)」などの概念を用いて研究の質を評価します。
メビックスでは、複数の分析者がデータを分析する「研究者トライアンギュレーション」により、結果が特定の分析者の主観に偏るのを防いでいます。質的分析ソフトウェアの活用で分析の過程を記録に残し、第三者が検証可能な透明性も確保しています。また、プロジェクトに関わる医師の意見を取り入れ、結果が医学的・臨床的に妥当であるかを確認する機会をご用意することも可能です。
また、研究の「一般化可能性」については、質的研究では統計的な一般化ではなく、比較的少数の対象者の経験の深い理解を目指します。その上で、得られた知見が類似した状況や他の集団にも適用できる可能性を示す「外挿可能性(transferability)」を重視します。メビックスでは、研究結果の外挿可能性を高めるため、研究参加者の背景情報を事前アンケートで取得し、論文中に記載するなどの工夫を行っております。
このような、量的研究と異なる質的研究の評価基準へのご対応についても、ぜひお気軽にご相談ください。
お問い合わせ
質的研究は、患者さんの生の声を科学的なエビデンスへと昇華させる手法です。メビックスは国際ガイドラインに準拠した厳格なプロセスと豊富な実績により、質の高い質的研究支援を提供しています。
患者の声を科学的エビデンスへと変える質的研究に関心をお持ちの方は、ぜひメビックスまでお問い合わせください。ニーズに合わせた最適な研究デザインをご提案します。
質的研究業務に関する採用・求人情報(正社員・業務委託)
メビックスでは現在、質的研究・分析の担当者(正社員または業務委託)を募集しています。
臨床研究における「語り」や「文脈」の重要性が高まる中、ともにこの分野を開拓し、エビデンス創出に貢献できる方をお待ちしています。
